注目ニュース2019-12-18
日本 読解力15位に急落 15歳 国際学力調査 数学・科学応用は高水準
日本 読解力15位に急落 15歳 国際学力調査 数学・科学応用は高水準
経済協力開発機構(OECD)は3日、世界79カ国・地域の15歳を対象として2018年に実施した国際学習到達度調査(PISA)の結果を公表した。日本は読解力が前回(15年調査)の8位から15位と大きく後退したほか、数学的応用力が前回の5位から6位に、科学的応用力も2位から5位に順位を落とした。文部科学省では、記述式問題などで課題が浮き彫りになったとみて、学力向上策など検討する。
調査は3年に1度、義務教育修了段階の子供たちを対象に読解力と数学的・科学的応用力を測るもので、今回は男女約60万人が参加。日本からは全国約6100人の高校1年生がテストを受けた。
それによると、日本の読解力の平均点は504点で、OECD加盟国平均の487点は上回ったものの、前回の15年調査より12点、前々回の12年調査より34点低かった。
文科省によると、全体の約3割を占める自由記述式の問題で得点が伸び悩んだといい、正答率がOECD平均を2割近く下回った問題もあった。文科省担当者は「自分の考えを他者に伝わるよう、根拠を示して説明することに課題がある」と分析している。
また、インターネットのサイトから必要な情報を探し出すなど、ネット社会を反映したような問題でも日本の正答率はOECD平均より低かった。
一方、数学的応用力は527点(OECD平均489点)、科学的応用力は529点(同489点)。前回に比べ5~9点低かったが、文科省では「引き続き世界のトップレベルを維持している」としている。
国・地域別の平均点順位は、3分野とも中国の「北京・上海・江蘇・浙江」が1位、シンガポールが2位、マカオが3位で東アジア勢が上位を占めた。OECD加盟国の中では、読解力と科学的応用力はエストニア、数学的応用力は日本がトップだった。
【用語解説】OECDの国際学習到達度調査(PISA) 15歳を対象に義務教育で学んだ知識や技能を実生活で活用する力を評価するテスト。出題は「読解力」「数学的応用力」「科学的応用力」の3分野。OECDに加盟する国以外に、地域単位でも参加している。2000年から3年ごとに実施され、今回は読解力を重点的に調査した。15年からは実施形式を筆記からコンピューター使用に移行した。
■読解力低下 読書離れ響く 15歳 国際学力調査 本・新聞読む生徒 高い平均点
3日に公表された国際学習到達度調査(PISA)で、日本の高校生の読解力低下が浮き彫りになった。文部科学省は、パソコンを使ったコンピューター形式のテスト形式に不慣れなことや、記述式の問題を苦手としていることなどが要因として考えられるとしている。ただ、本や新聞などをよく読む生徒の方が平均点は高く、読解力低下の結果には、読書量の減少も影響しているようだ。
日本の読解力の順位は、前々回の2012年調査では過去最高の4位だったが、前回の15年は8位、今回は15位と急落した。
文科省によると、小6と中3を対象に毎年実施している全国学力テストなどでは、特に学力低下の傾向はみられないといい、同省担当者は「今回のPISAで読解力がなぜ低下しているのか要因を特定するのは難しい」と話す。
考えられる理由の一つは15年から導入されたパソコンを使ったテスト形式に不慣れなこと。日本の生徒は紙の筆記テストに慣れ、ポイントとなる部分に線を引くなどして思考を深める傾向があるが、パソコンではそれができず、戸惑うケースが多かったとみられる。
また、インターネットのサイトから必要な情報を探し出したり、情報の信憑(しんぴょう)性を見極めて対処法などを自由に記述させたりする問題の正答率が低かった。日本では選択式問題のテストが多く、記述式が苦手な生徒が多いと指摘されてきたが、PISAでもそれが浮き彫りになった格好だ。
一方で、読書習慣のある生徒の方が平均点が高いことも分かった。小説などを月数回以上読む生徒の平均点は531点で、読まない生徒より45点高かった。新聞を同頻度で読む生徒の平均点も、そうでない生徒より?点高かった。
テストのほかにアンケートも行われたが、ここでは活字離れが進んでいる実情も明らかになった。日本の場合、新聞を月数回以上読む割合は21・5%で、9年前の09年調査に比べ36・0ポイント減少。雑誌を読む割合も30・8%で、33・8ポイント減少した。
■プロセス重視の採点
PISAは「読解力」「数学的応用力」「科学的応用力」の3分野とも選択式と自由記述式の問題が出題され、採点方法は問題ごとにコンピューターによる自動式や採点者によるものに分かれる。
日本の場合は文部科学省所管の研究機関「国立教育政策研究所」の担当者が採点を行う。解答までのプロセスや概念の理解が重視され、正答でなくても途中までの解答内容によっては部分点が与えられる。3年ごとの各回で3分野のうち1分野を順番に重点的に調査。経年比較ができるように同じ問題を長期間使用しており、そのため問題は一部を除き非公開。
■経済水準による格差 日本が最小
PISAで、日本の平均点順位は前回より後退したものの、家庭における社会・経済・文化的な水準の格差が学力に及ぼす影響が、各国に比べて小さいことも分かった。調査では、参加者へのアンケートをもとに保護者の学歴、職業、所有物(乗用車や蔵書の数など)から参加者一人一人の社会経済文化的背景(ESCS)を4つのレベルに分け、それぞれの得点を分析した。
それによると、ESCSのばらつきを示す数値が日本は参加79カ国・地域の中で最も低く、各家庭の文化的、経済的水準などの格差が小さいことが分かった。
また、OECD加盟国で比較すると、日本の場合、ESCSが高い上位25%の生徒の読解力の平均点は537点、下位25%は465点。得点差は72点で、OECD平均(得点差89点)を大きく下回った。国立教育政策研究所の大塚尚子総括研究官は「得点差が小さいほど、家庭の経済的格差などが学力に及ぼす度合いも低い。各国との比較では日本は一定レベルの教育が広く行き届いていることがうかがえる」と説明する。 加盟国ではないが、順位の高かった「北京・上海・江蘇・浙江」(中国)の得点差は82点、シンガポールは104点で、いずれも日本より格差が開いた。
■「電子書籍で読書習慣を」広島大大学院・難波博孝教授
PISAの結果では、日本の高校生の読解力が下がっていたが、要因として、活字に触れる機会が減ったことが挙げられる。社会のデジタル化が進み、本や新聞など紙の媒体を読む環境が失われ、習慣もなくなってきているためだ。代わりに普及が進んでいるタブレットやスマートフォンなどのデジタル機器を使い、電子書籍や文章を深く読む経験を積ませるべきだが、日本は学校でそうした教育が行われていない。
家庭でも有効な活用の仕方が教えられないためSNS(会員制交流サイト)やゲームといった消費的な使い方ばかりがなされている。それでは情報を流し読みするばかりで頭の中に残らず、「活字に触れる」とはいえない。
さまざまな情報を文中から探し、組み立て、評価するといった読解力の訓練は、教えてあげない限りはできるようにならない。それに紙媒体で読むのと違ってデジタル機器の画面上で文章を頭に残るよう深く読むという作業も慣れが必要。学校でいち早く教材のデジタル化を進めるべきだ。海外では子供たちが授業で使う教科書の電子化が進められている。 このほか読解力が低迷した要因として大きいのは、調査対象だった高校1年の世代は「テスト疲れ」をしていること。「脱ゆとり教育」の流れで、学力強化に向けて小中学校での全国学力テストをはじめ、自治体によるテストなど、さまざまな試験を課されている。学校の成績に無関係なPISAに対しては、生徒は意欲を失っている。 (談)
=産経新聞の記事から