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注目ニュース2019-12-18

【教育デジタル革命】(1)すべての子供の学習手助け 解禁から半年 課題も見えた

デジタル教科書・教材で主にできること

タブレット端末などで利用できる学習者用の「デジタル教科書」が今年4月から全国の小中学校で使えることになった。文字の拡大や読み上げ機能で、文字を追うことが難しい子供も理解しやすく、立体的な画像や動画の副教材は児童生徒の学習を支援する。一方、解禁から半年がたつが、導入に二の足を踏む自治体も多い。普及拡大への課題も見えてきた。(木ノ下めぐみ)

 デジタル教科書は紙の教科書と内容は同じ。重要な文章にハイライトで線を引いたり、ページに直接要点を書き込んだりもできる。

 文字色や書体、背景色の変更ができることから、学習障害で文字が認識しづらい子供にとって読みやすくなる効果が期待される。音声の読み上げや、ページを拡大する機能は視覚障害のある子供の学習に役立つという。

 全ての漢字にふりがなを表示する「総ルビ」機能もボタン1つで切り替えができる。光村図書出版ICT事業本部の森下耕治・普及促進部長は「急増する外国にルーツのある子供への指導方法が教育現場で課題となっている。デジタル教科書ならすべての子供への手助けができる」と力を込めた。

◆授業以外でも活用

タブレットにはデジタル教科書の内容と連動するアニメーションやグラフィックなどのコンテンツ「デジタル教材」も副教材として内蔵されている。理科の実験の手順や算数の図形の展開など文章や平面では分かりづらい学びが可能だ。

 「ちょっと結晶格子をみてみようか」

 一足先に平成25年からデジタル教科書を導入している大阪府東大阪市の近畿大学付属高校の化学の授業。乾武司教諭(56)が指示すると、生徒たちは端末に内蔵された副教材を開いた。規則的に並んだ結晶構造の立体的な図が映し出され、「回転開始」のボタンを押すと図がゆっくりと回る。紙では確認できない裏側の粒子の様子も表示されていた。

 乾教諭は「これまでは黒板に絵を描くなどして生徒の理解を促してきたが、デジタル教科書のほうが、生徒もイメージをつかみやすいようだ」と話す。「情報量も多く、便利なので授業以外でも柔軟に使うようになった」という。

 児童生徒が使う学習者用デジタル教科書の導入について、国は昨年、正式な教科書と位置づける学校教育法を改正。これまでは授業で紙の教科書を使用することを義務づけていたが、今年4月以降、小中学校で解禁され、半年が経過した。

◆格段に多い情報量

大阪府内の私立中学で社会を教える男性教諭(23)も「普段の授業では教科書に加え、副教材やプリントを使っているがデジタルは格段に情報量が多い」と導入に意欲を見せる。

 ただし実際に使うには児童生徒が1人1台ずつタブレットなどを持つことが前提になる。無償で提供される紙の教科書とは異なり、端末やデジタル教科書を使うための「アカウント」も購入する必要がある。自治体は予算をつけなければならないため、導入のハードルは高くなる。

 タブレットの配布などICT(情報通信技術)教育に力を注ぐ大阪府箕面市の担当者は「公立では費用面でかなりのハードルがある。まずは教諭が電子黒板などと一緒に使用する『指導者用デジタル教科書』の普及の必要もあり、児童たちが使う学習者用の検討は少し先の話になるだろう」と話す。

 来年度から小学校で新学習指導要領が全面実施となるのに合わせ、今後、学校現場でのデジタル教科書の本格活用を検討する学校も少しずつ増えるとみられている。教科書会社の担当者は「まだまだこれからの分野。私立小中やICTの先進的な取り組みをしている一部の公立校を皮切りに、魅力を伝えていけたら」としている。

■教員の活用力向上が鍵

文部科学省ではデジタル教科書の効果的な活用の仕方や注意点について整理したガイドラインを昨年12月に公表している。

 ガイドラインはデジタル教科書を「紙の教科書と同一の内容がデジタル化された教材」と定義。動画やアニメーションなどは、デジタル教科書には該当せずあくまで補助教材と位置づけている。そのうえで、デジタル教科書とデジタル教材を一体的に活用することで、児童生徒の学習の充実を図ることを想定している。

 デジタル教科書は写真やイラストを細部まで見ることや、習熟度に合わせた学習を可能にすると例にあげている。一方、活用にあたっては教員のICT(情報通信技術)活用指導力の向上を図ることを求めた。また、児童生徒の健康に関しても注意する点をあげ、デジタル教科書を使用する際には姿勢に関する指導を適切に行い、目とコンピューター画面との距離を30センチ以上離すよう指導することも求めている。

=産経新聞の記事から

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