注目ニュース2019-12-23
【教育デジタル革命】(3) 若い先生を育てる児童の目 授業の理解度 4段階評価
ICT(情報通信技術)を教諭育成に生かそうとする取り組み
全国で小学校教諭の若年齢化が進み、知識と経験を備えたベテランの減少が深刻な問題となる中、ICT(情報通信技術)を教諭育成に生かそうとする取り組みが行われている。奈良市の小学校では児童の授業理解度などのデータを収集。学校全体で情報を共有し、若手教諭をフォローし、応援する動きにつなげている。(桑島浩任)
「みんな、タブレットに今日の評価を入力して」
授業終了の5分前、教諭の指示を受け、児童が慣れた手つきでタブレットの操作を始める。奈良市立佐保小学校では週に1度、4~6年生から授業の評価を集めている。
◆改善点を把握
「今の話は分かりましたか」「新しく学んだことや、あらためて気づいたことはありましたか」の2項目について、分かった▽少し分かった▽あまり分からなかった▽分からなかった―の4段階で評価。この日は道徳の授業を受けた5年生33人のうち、30人が「分かった」または「少し分かった」と回答した。放課後には、授業を見学した他クラスの教諭や市教委の担当者を交え、児童からのフィードバックを踏まえて改善点を話し合う。
5年生の担任を務める佐々木勇馬教諭(36)は「自分の手応えと子供の評価が乖離(かいり)していることがある。うまくできたと思ったときに評価が低かったり、失敗したと思ったときに高評価だったり、子供の反応が数字で把握できるのはすごく参考になる」と話す。
◆職員室で共有
市教委によると、市内の公立小学校の教諭は20~30代が全体の約64%(5月現在)を占める。同校に授業評価システムが導入されたのは2学期からだが、佐々木教諭は「子供たちの挙手や発言の回数が目に見えて増えた」と早くも手応えを実感している。
データには授業の評価のほか、全教科の成績や生活習慣アンケート、児童に関する個別のメモなどさまざまな情報がまとめられ、職員室のパソコンでいつでも閲覧できる。
市教委学校教育課の岡田仁志指導主事は「児童の情報はこれまで担任だけが持っていて共有されてこなかった。学校全体で児童に気を配れるようになったのは大きい」と指摘する。担任が気づかなかった異変を別の教諭が察知し、いじめの兆しを早期に発見したケースもあったという。
総務省は平成29年度から「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」として一連の取り組みを実施。タブレットをはじめとするデジタル教材や、学校と児童・保護者をつなぐ教育SNSの導入が進む一方、成績や生徒指導の情報を管理する校務系システムとは連携が進まず、バラバラに活用されている現状を解決するのが目的だ。
現在は奈良市のほか、東京都渋谷区や大阪市など5市区町で同様のシステムを導入。事業は今年度で終了となるが、奈良市教委の担当者は「独自に継続し、いずれは市全体に取り入れたい」としている。
40代前半の中堅 足りない
公立小学校教諭の若年齢化はどの程度進んでいるのか。文部科学省が3年に1度実施している学校教員統計調査によると、ピーク時の平成19年度は44・5歳だった平均年齢が、28年度には43・4歳に。60歳以上の再任用職員を除けば42・8歳に下がっている。
とりわけ顕著なのが40代前半の空洞化だ。教育現場の中核を担う「40~44歳」はわずか10・3%に過ぎず、「60歳以上」を除く全世代で最も少ない。
大阪教育大の臼井智美准教授は「約20年前に教員採用を絞ったしわ寄せが来ている」と指摘する。各自治体は少子化に直面し、学級数などをもとに決められる教員の定数を削減。団塊の世代が現場から去った結果、長年培ったノウハウを教えられる人材の不足が深刻化しているという。 臼井准教授は「昔はベテランが若手に仕事を任せ、能力を伸ばすという師弟関係があった。今は若手が現場で学ぶ手段が乏しい」と語る。全国の自治体では現在、独立行政法人教職員支援機構が策定した基準をもとに、世代別に必要な能力をピンポイントで伸ばす研修を導入しているが、「現場で(先輩から)伝えられるのが一番重要。ベテランの知見をシステマチックに伝える仕組みを作らないといけない」と危機感を募らせ、ICT(情報通信技術)活用の可能性にも期待を寄せる。
=産経新聞の記事から