進学お役立ち情報

進学お役立ち情報2019-06-24

【中学生のあなたへ】作家・朝井リョウさん 新聞を読もう、社説は「世界」を連載している

【中学生のあなたへ】作家・朝井リョウさん
新聞を読もう、社説は「世界」を連載している

情報が氾濫する社会の先頭を走る人たちは、新聞というメディアをどのように利用してきたのか。
史上最年少で直木賞を受賞した作家、朝井リョウさんは、新聞の社説を「世界という物語が連載されている」と表現する。

読み比べると多様な意見が分かる。
文章を能動的に読めば、心に残る。情報を蓄積すれば、「点」が物語になる。

 朝に、新聞6紙の社説を読むことを日課にしています。特に関心のある話題は個条書きでメモしています。学生時代に始めて、今も続けています。はじめは、単語のレベルで理解できないものもあり、これまでの流れを知らない話題にお手上げ状態でしたが、読み続けるとさまざまな話題が、縦にも横にもつながっていきます。

 例えば平成30(2018)年3月には、ほとんどの新聞がドイツのメルケル首相の4期目となる政権発足を取り上げましたが、これだけを読んでも分からないし、記憶にも残らないですよね。ただ、自国第一主義を唱えるアメリカのトランプ大統領の動きや、いろいろな問題にEU(欧州連合)が揺れていることを知っていると、メルケル首相再選、という事実の持つ意味を実感できる。

 長期連載中の漫画を途中から読みだして、どんどん登場人物の関係性や内容を理解していく感覚に近いです。それが「世界」という物語だと考えると、ワクワクしませんか?

 また、複数の新聞を読み比べると、同じ事実から違う意見を導き出していることも分かります。初めて選挙の投票に行ったとき、「正解を選ばないといけない」という恐怖感を強く持ちました。でも、「新聞の社説でも意見が分かれるのだから、人と違う意見でもおかしいことじゃない」と安心できました。

『世界』という物語の連載を新聞で楽しく読んでいます」と話す朝井リョウさん(宮川浩和撮影)

読むことで集中する

 テレビなどの映像は、演出や音声などで分かりやすさが強まりますが、私の場合、注意力が散るんです。新聞や小説の場合、文章を読むという一つの行動に注意力を注ぐことができ、「ここから受け取れるものを全部受け取らないともったいない」と、能動的に自分から情報に手を伸ばす感覚を抱きます。受け取る情報より、自分から掴(つか)みに行く情報のほうが、頭にも心にも残ります。

 小説もそうです。私は、小説は決して正解を示すものではないと思っています。小説は、テーマに対して異なった哲学を共存させられる。そこから読み手が自分に合った解釈を選ぶから、心に残る。分かりやすさは、時に、私たちから能動的な思考を奪います。

話がつながる快感

 ある研究者の方が、あらゆるツールが発達した今、人間が最も苦手とする行為は「待つ」ことだと話していました。大学生の過半数が読書時間ゼロという報道もありましたが、気持ちはわかります。新聞や本って読み終えるのに時間がかかる。それで「面白くなかった」「役に立たなかった」なんて、すごく損をした気持ちになりますよね。

 だけど人生は、すぐ役立つものばかりでできていません。私はこれまで、昔読んだ新聞や本から受け取った言葉が体のどこかでずっと待機していて、いざというときに「やっとときが来たか」と立ち上がってくれた経験が何度もあります。

 新聞は、あらゆるジャンルの情報が等価値で目に入ってくる、というところがいいです。ネットニュースでは、自分が選択した情報しか読みませんが、新聞なら興味や関心から外れた情報も自然と入ってくる。

 時間を費やして失敗したくない、興味や関心から外れた情報に目を配るヒマなんてない。気持ちはわかります。だけど、新聞を毎日読んで蓄積していくと、情報は、つながって、やっと形になることがわかります。星座のようなものでしょうか。一つの星だけ見ていても何を象(かたど)っているかわかりませんが、いくつかがつながると星座の形が浮かび上がる。自分の中で、情報の星座ができるまで待つことができれば、効率重視の選択では感じられないような「快感」が得られる気がします。

 若い世代の方々には、新聞や本に触れ、じっくりと情報を蓄積する自分を信じて待ってみようと伝えたいです。小中学生の方も、漫画を読むような気持ちで新聞を手にとってみてほしい。続けて読んで話がつながると、誰も結末を知らない「世界」の物語に夢中になると思います。(談)

デビュー作『桐島、部活やめるってよ』など、朝井リョウさんの著書

【プロフィル】朝井リョウ(あさい・りょう)
平成元(1989)年、岐阜県出身。早稲田大学文化構想学部卒。平成21(2009)年、小説すばる新人賞を受けた『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。平成25年に就職活動する若者を描いた『何者』で直木賞。戦後最年少、平成生まれ初の受賞者となる。『スペードの3』『武道館』など著書多数。26年、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞。そのほか著作に『風と共にゆとりぬ』『死にがいを求めて生きているの』など多数。=産経新聞の記事から


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